物理
大問として原子分野からの出題がなくなり、代わりに波動分野からの出題となった。昨年に引き続き考察力を試す出題が目立った。
―概評―
まず、原子分野から出題された設問が小問集合の中の一つになったのが目を引く。また、実験および実験データの分析など、探究活動を意識したと思われる出題が目立った。さらに、第4問問1のガウスの法則は1990年以降、初の出題と思われる。
【大問数・設問数・解答数】
・昨年と変わらず4。
・昨年と変わらず20。
・昨年から1増加して26。
【問題量】
・問題記載ページは昨年の24ページから4ページ増えて28ページとなっている。読む分量も増えたので試験時間に対してやや多い印象である。
【出題分野・出題内容】
・第1問は物理の複数分野(力学、熱、電磁気、原子)からの小問集合形式による出題。
・第2問は抵抗力を受けて空気中を落下する物体の運動に関する仮説と、それを検証する実験についての考察問題。
・第3問は音源が等速円運動する場合、および観測者が等速円運動する場合のドップラー効果に関する問題。
・第4問は平行平板コンデンサーを含む回路に関して、電流の時間変化を表すグラフから帯電量および電気容量を考察させる問題。半減期に関する知識があると考えやすい。
【出題形式】
・昨年と同様に大問をAとBに分けての異なる項目からの出題はなく、ひとつながりの問題で幅広い項目を扱っている。実験や数値計算など、探究活動を意識した出題といえる。しっかりした物理の実力がないと対応が難しいと思われる。
―難易度(全体)―
難易度は昨年並み。実験に関して考察したり結果を解釈したりする問題が多く、考える力が試される共通テストらしい出題であった。小問集合中ではあったが、昨年に引き続き原子分野からの出題も見られた。
―設問別分析―
第1問
・小問1 力のモーメント 難易度:やや易
・小問2 熱機関 難易度:やや易
・小問3 運動量と力学的エネルギー 難易度:やや易
・小問4 荷電粒子の運動 難易度:やや易
・小問5 光電効果 難易度:やや易
昨年同様、小問集合であった。計算量もなく考えやすかった。問1は力のモーメントについての問題で、板にはたらく力のモーメントのつり合いを考えればよい(体重計の表示は板にはたらく力の反作用によるものである)。
問2は圧力と体積のグラフが与えられた熱機関に関する問題。熱力学の第1法則や気体のする仕事について定性的に理解できていればよい。
問3は、運動量や力学的エネルギーが保存するための条件が聞かれている。
問4は磁場中の荷電粒子の運動についての問題で、ローレンツ力の方向さえ誤らなければ直感的に回答することもできる(質量の大きい粒子は曲がりにくく、回転の半径は大きい)。
問5は光電効果の問題で、原子分野の知識が必要。内容は基礎的なので、油断することなく原子分野を学習していれば平易。
第2問
・抵抗力を受けた物体の運動 難易度:標準
速度によって変化する抵抗力について考察する問題であった。問1は物体の運動と抵抗力について概観を把握するための問題であり、平易。
問2は与えられた数値から終端速度を計算する問題。20センチ落下するのに0.13秒かかったと考える。単位に注意。
問3は仮説と実験結果の齟齬(そご)について考察する問題。終端速度がアルミカップの枚数に比例するのなら、実験結果は原点を通る一つの直線上に乗るはずである。
問4は何が聞かれているか把握しづらいか。直前の会話文から何が聞かれているのかしっかりと読み取り、比例関係に着目したい。
問5はどうすれば抵抗力が求まるか考察する問題。加速度は、その物理的意味が理解できていれば、求めるための操作もおのずとわかってくる。抵抗力の大きさは運動方程式を用いればよい。
第3問
・円運動・ドップラー効果 難易度:標準
円運動する音源や観測者を題材にしたドップラー効果の問題であった。問1は円運動についての力学的な問題。向心力は物体の速度と直交しているため仕事をしないことに注意。
問2は円運動している音源から聞こえる音について、ドップラー効果を起こさないのはどこで出た音か問われている。経験があった受験生も少なくないだろう。
問3は点Aで出た音の振動数と音源の速さを求める問題。他の設問と比べると少し計算量がある。
問4は音源ではなく観測者が円運動する場合を考える。この場合でも同様に、観測者の速度の音源に向かう方向の成分がドップラー効果に寄与する。
問5は、音源が円運動している場合と観測者が円運動している場合について正しい文章を選ぶ問題。静止した立場では音の速さが変化しないことがわかっていれば考えやすい。
第4問
・コンデンサー 難易度:やや難
コンデンサーに関する総合的な出題であった。問1は平行平板コンデンサーの電気容量の公式を導く問題。真空の誘電率を用いた公式であれば覚えている受験生も多かったと思う。
問2はRC回路の問題。充電が終わり、スイッチを開いた直後のコンデンサーの電圧とオームの法則を考える。
問3は電流の時間変化のグラフから物理量を適切に読み取る問題。1ますの面積が1目盛り当たりの電流値と時間の積(電気量)に対応していることに気づきたい。
問4は電流の大きさが小さくなっていく時間について考察する問題。原子分野の半減期と考え方は同じ。2の10乗が大体1000(1024)であることを用いるか、電流が1/10になる時間を読み取って3倍するのがよい。問5はより正確な電気容量の測定に関する問題。問3で求めた電気容量は、120s以降に流れ出る電荷を無視しているので真の値より小さい。(代々木ゼミナール提供)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル